コールセンターと温暖化対策:5つの実践的アプローチと企業責任

地球温暖化の進行により、企業活動における環境負荷の見直しが急務となっています。
特にコールセンターは、電力消費や人の移動が多いことから、今後より注目されていくでしょう。
企業が持続可能な成長を目指すには、コールセンターの運営方法を見直し、環境負荷を定量的に把握・削減することが不可欠です。

本記事では、温室効果ガス(GHG)排出におけるScope1〜3の分類や、GX推進法・TCFD対応など、知っておくべき制度と実践的な5つの削減策を紹介します。

目次

温室効果ガス排出に対する企業の義務

Scope1, 2, 3とは?

まず、企業のGHG排出量は、以下の3つのスコープに分類されます。

スコープ内容コールセンターでの例
Scope1企業が直接排出するGHG自社施設の燃料使用(例:ガス暖房)
Scope2他社から購入した電力・熱の使用による間接排出電力使用(PC、照明、空調など)
Scope3サプライチェーン全体で発生するその他の間接排出通勤、外部委託先の排出、機器製造など

これら各スコープにおけるGHG排出量を抑制していくことが求められています。

温対法とGX推進法

温対法(地球温暖化対策推進法)

年間エネルギー使用量が1,500kl(原油換算)以上の事業者は、国への報告義務があります。
これは、電力換算で約3,900,000kWhに相当し、大規模コールセンターや複数拠点を持つ企業は対象となる可能性があります。

GX推進法(グリーントランスフォーメーション)

2023年に施行されたGX推進法では、企業の脱炭素投資を促進するための制度が整備され、排出量取引制度やグリーンボンド発行などの支援が可能になりました。
コールセンターの省エネ化や再エネ導入も対象となります。

上場企業の義務

上場企業は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)により、GHG排出量の開示が求められています。
2024年以降、プライム市場上場企業の約90%がTCFD対応を進めており、Scope1〜3の排出量を定量的に報告することがスタンダードになっています。

コールセンターで発生するCO₂(🧮スコープ別排出量の試算)

それでは、コールセンターのGHG( ≒ CO₂)排出量について、下記条件で算出してみます。

🧮 モデル条件(前提)

コールセンターのGHG排出量

この条件のコールセンターにおいて、
年間の想定GHG排出量は、 40.63 t-CO₂ となりました。

各スコープ毎の合計

✅ 最終GHG排出量(年間合計)

スコープ項目排出量(t-CO₂)
スコープ1該当なし0
スコープ2電力使用33.34
スコープ3通勤5.05
紙使用・廃棄1.20
オフィス用品0.27
機器製造・廃棄1.22
合計40.63 t-CO₂/年
(スコープ1)GHG排出量の計算

✅ スコープ1:直接排出

該当なし
→ 自社車両や燃料使用がないため、排出量はゼロ。

(スコープ2)GHG排出量の計算

✅ スコープ2:購入電力による間接排出

📊 電力使用量の内訳(年間)

項目消費電力(W)年間稼働時間電力使用量
(kWh)
排出量
(t-CO₂)
PC100W(0.1kW)39,640時間
※累計稼働
3,9641.68
電話機10W(0.01kW)396.40.17
空調5,000W(5kW)8,760時間
※24h×365d
43,80018.53
サーバー(PBX等)1,000W(1kW)×3台26,28011.12
照明500W(0.5kW)4,3801.85
合計78,820.433.34

📌 使用係数

電力排出係数:0.000422 t-CO₂/kWh1

(スコープ3)GHG排出量の計算

✅ スコープ3:その他の間接排出

🚃 通勤(鉄道)

  • 年間出勤回数:4,955回
  • 通勤距離:往復60km
  • 排出係数:17 g-CO₂/人・km2 = 0.000017t-CO₂/人・km
  • 排出量:297,300 km × 0.017 = 5.05 t-CO₂

📄 紙使用・廃棄

  • 使用量:135,700枚(約610.65kg)
  • 製造排出係数:1.83 t-CO₂/t3 = 0.00183t-CO₂/kg
  • 焼却排出係数:0.1317t-CO₂/t4 = 0.0001317t-CO₂/kg
  • 排出量:製造:1.12 t-CO₂、廃棄:0.08 t-CO₂、 計:1.20 t-CO₂

✏ オフィス用品(文具)

項目購入費排出係数
(t-CO₂/百万円)
排出量(t-CO₂)
文具100,000円2.6750.27

💻 機器の製造・廃棄

機器台数排出係数耐用年数年換算排出量(t-CO₂)
PC(製造)10台0.452 t-CO₂/台65年0.452 × 10 ÷ 5 = 0.90
電話機(製造)10台0.159 t-CO₂/台75年0.159 × 10 ÷ 5 = 0.32
廃棄(年間更新台数:
PC 2台、電話機 2台)
PC:8kg
電話機:1kg
PC:0.0644 t-CO₂/t8
電話機:0.0122 t-CO₂/t9
0.0644 × 0.008 × 2
+ 0.0122 × 0.001× 2 = 0.001
合計1.22 t-CO₂/年

コールセンターでCO₂を削減する方法

次に、CO₂排出量の削減に有効と思われる施策について検討してみます。

① クラウド型システムの導入 💻

まずは、サーバー類をオンプレミスからクラウドに移行する方法です。
この方法では、約80%ほどの電力消費を抑えることが出来ると言われています。

今回の例では、電力使用量は 26,280kWh から 5,256kWh となります。
また、GHG排出量も 12.16t-CO₂ から 2.43t-CO₂ となり、大きな削減が期待できます。
※自社での電力消費(スコープ2)から、その他の間接排出(スコープ3)に変わります。

② 在宅勤務の推進 ※自動車通勤の場合 🏠

次に、コールセンターの在宅化の影響も検証します。
一般的にこの方法は、GHG排出量の削減に効果があると思われがちです。しかし実は、GHG排出量が増加してしまう可能性も高いため、注意が必要です。

GHGの削減が期待できる項目

  • コールセンター内での電力消費(スコープ2)を抑えられる。
  • 通勤時の交通によるGHG(スコープ3)の排出が抑えられる。
  • コールセンターで勤務中に発生するその他の間接排出(スコープ3)が抑えられる。

GHGが増加してしまう項目

  • 家での電力消費(スコープ3)が新たに発生する。

在宅勤務がCO₂削減に貢献する条件

ここで、削減量の期待値が、増加量を超えれば、効果があると言えます。
しかし、空調による一人当たりの消費電力は、自宅よりも集合オフィスの方が少なくなります。

項目集合オフィス在宅勤務
空調消費電力(1人あたり)0.8kWh/時間1.5kWh/時間 ※1人を想定
排出係数0.000423 t-CO₂/kWh10
年間勤務時間1,920時間( 8時間 × 20日 × 12ヶ月 )
排出量約0.65 t-CO₂/人約1.22 t-CO₂/人
1人あたりの空調使用量比較(概算)

在宅勤務では、空調による排出量が大幅に増加してしまう可能性があります。

そのため、他の条件と総合して考えることで、GHG削減への貢献有無が判断出来ます。
ここでは、特に通勤がなくなる事での削減量が重要になります。

🚙 自動車通勤を減らせるなら、在宅勤務でGHG削減の期待大

今回の前提条件では、鉄道での通勤としていたため、大きな削減は難しくなっています。
さらに、仮に数人の乗車がなくなっても鉄道の本数が変わる事は、ほとんどありません。
鉄道乗車による一部の責任を持つという考えはありますが、本質的な削減にはなかなか繋がりません。

そこで、効果が期待できるのは、自動車通勤が多いケースです。
自動車通勤のGHG排出量は、鉄道と比べると約10倍となります。
仮に今回の例で、通勤を自動車(片道45分)とした場合、GHGの年間排出量は57.09t-CO₂となります。
これを削減出来れば、空調による増加と相殺した上で、効果が期待できるかもしれません。

自動車通勤で排出されるGHG量

項目内容
通勤時間片道45分(往復90分)
通勤距離約30km(片道) × 2 = 60km(往復)
通勤回数年間4,955回(平日:15人×261日、土日祝:10人×104日)
使用車両一般的なガソリン車(乗用車)
排出係数0.111 kg-CO₂/人・km11
前提条件(自動車通勤)
  • 通勤距離:60 km/回 × 4,955 回 = 297,300 km/年
  • 排出係数:0.111 kg-CO₂/km = 0.000111 t-CO₂/km
  • 排出量:297,300km × 0.000111 = 33.00 t-CO₂/年
通勤手段排出係数(kg-CO₂/人・km)年間排出量(t-CO₂)
鉄道0.0175.05
自動車0.11133.00
差分+27.95 t-CO₂(6~7倍)
鉄道通勤との比較

このように、自動車通勤に変更すると、年間GHG排出量は約33.00 t-CO₂となり、鉄道通勤の6~7倍に増加します。 この排出はすべてスコープ3(カテゴリ7)に該当します。
仮に、通勤手段が自動車であった場合、在宅勤務の導入は有効な削減策となります。

③ 電力消費を抑える 💡

続いて、比較的簡単に実現出来る方法として、電力消費を抑えることです。

省エネ機器の導入(LED照明)

一般的に、LED照明は、従来型(蛍光灯・白熱灯)に比べて約50%の省エネ効果があるとされています。
まずは、ここから試すのも良いかもしれません。

クールビズ・ウォームビズ / オフィスカジュアル

クールビズ・ウォームビズ導入により、空調設定温度を±2℃変更すると、約10〜20%の電力削減が可能とされます(環境省資料より)。また、オフィスカジュアルも、服装の柔軟化により空調設定の自由度が上がることで、同様の削減効果が期待されます。

④ 再生可能エネルギーの活用 🌞

さらに、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用すればGHG排出量を抑えることが可能です。

🔋 再エネ電力メニューの契約(グリーン電力)

  • 電力会社が提供する「再エネ由来の電力メニュー(例:FIT非化石証書付きプラン)」を契約する。
  • 排出係数がゼロまたは極めて低い(実質ゼロ)と認定される。

🔌 自社で再エネ設備を導入(自家発電)

  • オフィス屋上や敷地に太陽光パネルを設置し、自家消費する。
  • 自社発電分は、スコープ2の排出量に含めず、スコープ1にも該当しない(非排出)。

⑤ 外部委託先の活用 🏢

最後に、外部委託先を活用することも一つの方法です。

本質的には、自社で窓口を運営しても外部に委託してもGHGは排出されます。
仮に全く同じ運用をしている場合は、変わらないはずです。ここで有効なパターンを紹介します。

外部委託先がGHG排出削減に取り組んでいる

一つは、外部委託先の取り組みに注目することです。
GHG排出削減に取り組んでいる企業を選定することで、間接的に環境対策に取り組むことが出来ます。

夜間窓口等の委託

またもう一つの例として、夜間窓口等、多くの工数が必要ない業務の委託があります。
しかし、オフィスが稼働すれば、人員が少なかったとしても、一定量のGHGは排出されます。

そんな時は、外部委託先に任せることで、GHG排出の抑制が期待出来ます。
委託先が既に24時間稼働している場合、GHGが追加で排出されないため、環境対策として適切です。

まとめ

コールセンターは、企業の顧客接点であると同時に、環境負荷の大きい拠点でもあります。
Scope1〜3の排出量を定量的に把握し、法制度に対応しながら削減施策を講じることは、企業の信頼性向上と持続可能性の確保に直結します。
今後は、テクノロジーと働き方の革新を進め、より環境に配慮したコールセンター運営が求められるでしょう。

  1. 電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)
    -R5年度実績- R7.3.18 環境省・経済産業省公表、R7.7.18、R7.7.28、R7.8.1一部追加・更新
    「代替値(省令の排出係数):0.000422 (t-CO₂/kWh)」より
    https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/files/calc/r07_denki_coefficient_rev4.pdf ↩︎
  2. 温室効果ガス排出量及び吸収量算定結果 2.4 運輸部門におけるエネルギー起源CO2
    「鉄道:17g-CO₂/人・km」より
    https://www.env.go.jp/content/000324510.pdf ↩︎
  3. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース Ver.3.5(EXCEL)<2025年3月リリース>
    「(5産連表DB)洋紙・和紙:1.83 t-CO₂eq/t」より
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html ↩︎
  4. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース Ver.3.5(EXCEL)<2025年3月リリース>
    「(9廃棄物【種類別】)洋紙・和紙(廃棄物輸送段階 含む):0.1317 t-CO₂eq/t」より
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html  ↩︎
  5. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース Ver.3.5(EXCEL)<2025年3月リリース>
    「(5産連表DB)筆記具・文具:2.67-tCO₂eq/百万円」より
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html ↩︎
  6. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース Ver.3.5(EXCEL)<2025年3月リリース>
    「(5産連表DB)パーソナルコンピュータ:0.452t-CO₂eq/台」より
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html  ↩︎
  7. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース Ver.3.5(EXCEL)<2025年3月リリース>
    「(5産連表DB)有線電気通信機器:0.159t-CO₂eq/台」より
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html  ↩︎
  8. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース Ver.3.5(EXCEL)<2025年3月リリース>
    「(9廃棄物【種類別】)パソコン・モニタ:0.0644t-CO₂e/t」より
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html ↩︎
  9. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース Ver.3.5(EXCEL)<2025年3月リリース>
    「(9廃棄物【種類別】)金属くず:0.0122t-CO₂e/t」より
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html ↩︎
  10. 電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)
    -R5年度実績- R7.3.18 環境省・経済産業省公表、R7.7.18、R7.7.28、R7.8.1一部追加・更新
    「代替値(省令の排出係数):0.000422 (t-CO₂/kWh)」より
    https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/files/calc/r07_denki_coefficient_rev4.pdf ↩︎
  11. 温室効果ガス排出量及び吸収量算定結果 2.4 運輸部門におけるエネルギー起源CO2
    「自家用乗用車 111g-CO₂/人・km」より
    https://www.env.go.jp/content/000324510.pdf ↩︎
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